サンプルはどれくらいあれば足りますか?

内視鏡生検サンプル: 一部位あたり2個以上の組織をお願いします。

手術で摘出した組織: 組織の状態にもよりますが、概ね0.3cm角程度の大きさがあれば十分です。専用チューブ1本に入れる量は0.6-0.7cm角程度を上限として下さい。

末梢血液: 極端に白血球数が少ない場合を除けば、0.2-0.5mLから十分なDNA量を得ることができます。

FNAサンプル: 採取できる細胞数がさまざまですが、目安として、スライド標本を3-5枚ほど作成できる程度の細胞数が最低ラインと考えて下さい。

パラフィン包埋組織で検査をすることは可能ですか?

可能です。しかし、組織中のゲノムDNAはホルマリン固定のために断片化していることがあります。断片化の程度によっては検査の精度が落ちる、あるいは検査ができない場合もありますので、できればホルマリン固定されていない材料をご用意ください。

生サンプルを送るときは室温?冷蔵?冷凍?

DNA/RNA保存液を別売でご用意しております。この専用保存液に浸漬されている場合は室温で安定にサンプルを送付することができます。
専用保存液に浸漬されていない場合は必ず冷蔵または冷凍でご送付ください。

染色済みのスライド塗抹で検査をすることは可能ですか?

可能です。スライド上に塗抹されている細胞数が十分であれば問題なくDNAを抽出し、検査をおこなうことができます。
もちろん未染色でも可能ですが、その場合は十分な細胞数が塗抹されていることをお確かめの上ご送付ください。染色済み、未染色、いずれの場合も細胞数が不足している場合には検査をおこなうことができません。

解析結果の解釈について

腫大したリンパ節の針吸引生検サンプルのクローン性解析を行ったところ、クローン性が検出されないという結果でした。リンパ腫ではないと判断していいですか?

クローン性が検出されなかった場合、下記に述べる解釈が可能です。

(1) リンパ節の反応性過形成である場合

(2) リンパ腫であるが、使用したプライマーの塩基配列が症例の腫瘍細胞と合わないために検出されない場合

(3) リンパ腫であるが、検査したサンプル中に含まれる腫瘍細胞が少ない場合

(4) リンパ系細胞以外の細胞(がん細胞の転移など)によってリンパ節が腫大している場合

リンパ節の針吸引生検サンプルの細胞診ではリンパ腫は否定的でしたが、クローン性解析結果はモノクローナルでした。リンパ腫と考えていいですか?

分化の進んだ細胞から成る低グレードリンパ腫(T領域リンパ腫など)の場合、細胞診でリンパ腫と判断するのは困難な場合があります。このような場合には細胞診でリンパ腫が否定的であってもクローン性が検出されることがあります。低グレードリンパ腫の確定診断のためにはリンパ節の摘出生検が必要です。過去の論文では、犬のリンパ節のクローン性解析に関しては、感染症(エールリヒア症)でもクローン性が検出された症例が報告されています。

バンドが2本(あるいは3本)検出されました。どのように考えたら良いですか?


以下の2つの可能性が考えられます。

(1) 単一細胞内で数種類の再構成が起こっている可能性

(2) 数種類のリンパ球が混在している可能性:バンドが1本認められる場合はmonoclonal、2本認められる場合はbiclonal、3-5本認められる場合はoligoclonalと呼びます。

(1) の場合、単独の腫瘍細胞クローンが増殖しているにも関わらず2本以上のバンドが検出されます。クローン性解析の結果のみから判断することはできませんが、biclonal、oligoclonalでも腫瘍性変化が疑われる場合もあります。
(2) は腫瘍性変化を起こしていない、限られた種類の(2—5種類程度の)反応性リンパ球クローンが増殖している可能性です。エールリヒア感染症においてはモノクローナルなTCRγ遺伝子の再構成を示す例が知られています。

病理組織学的検査ではリンパ腫と診断されましたが、バンドが検出されません。どのように考えたら良いですか?

以下の2つの可能性が考えられます。

(1) 使用したプライマーペアの塩基配列が
目的細胞のTCRγ遺伝子あるいはIgH遺伝子とマッチしなかった可能性

(2) クローン性解析に使用された組織中に含まれる腫瘍細胞率が低かった可能性

内視鏡生検サンプルの病理組織学的検査では慢性腸炎と診断されたのに、バンドが検出されました。どのように考えたら良いですか?

(1) 限られた抗原決定基(エピトープ)に対する反応性リンパ球がクローンに増殖している可能性:実際には慢性腸炎が起きていることになります。

(2) 病理組織検査に使用した組織より、クローン性解析に使用した組織の方が腫瘍細胞を多く含んでいた可能性:実際にはリンパ腫が起きていることになります。

の2つが考えられます。近年の研究により、大細胞性リンパ腫を除く犬の慢性腸症症例の約半数でクローン性遺伝子再構成が認められることが報告されました (Hiyoshi S et al., 2015)。
病理組織学的重症度が高い症例ほどクローン性再構成が認められる傾向にありましたが、現在のところその臨床的意義に関しては研究段階です。また、犬において病理学的にリンパ腫と診断する基準に関しても現在検討が進められています。

プライマーペアがいくつもあるのはどうしてですか?

TCRγ遺伝子とIgH遺伝子は非常に多様性に富んだ遺伝子です。できる限り検出率を上げるためには、多くのプライマーを使用する必要があります。
例えば犬のTCRγ遺伝子のプライマーは右図のようにほぼ同じ位置に設計されています。あるリンパ球において再構成したTCRγ遺伝子はcTCR-1とcTCR-2のいずれかのforwardプライマー(右図においては右向きのプライマー)とマッチすることにより増幅されますが、どちらもマッチしなければ増幅が起こりません。


一方、同時に両方のプライマーにマッチする可能性は低いと言えます。つまり、1つのTリンパ球クローンがcTCR-1とcTCR-2の両方のプライマーペアで増幅される可能性は低いことになります。

一方、IgH遺伝子のプライマーペアは異なる位置に設計されています。例えば、あるBリンパ球において再構成したIgH遺伝子がcIgH-1とcIgH-2の両方のforwardプライマーとマッチする可能性は十分あります。
つまり、1つのクローンがcIgH-1、cIgH-2の両方で増幅される可能性もあり、どちらか一方でのみ増幅される可能性もあることになります。